ファッション以外で僕を夢中にさせたものはロックミュージックである。正しくはファッションよりも先に夢中になったものがロックミュージックである。
もちろんそれはビートルズに出会った事から始まる。ビートルズの音楽に夢中になりローリング・ストーンズやアニマルズ、DC5、ヤードバーズ、ホリーズ、スペンサー・デイヴィス・グループ、数え上げたらキリが無いほどのロック・グループに夢中になった。
そしてその時期僕が一番手に入れたかったものがギターである。ギターを最初に手に入れたのは中学1年になったばかりの頃。それは古いガットギターだった。質流れってヤツだ。質屋の窓枠の向こうにそいつは飾られていた。1900円。入学祝いでもらったお金をそのギターのために使ったのだ。質屋に出入りしたのがわかり親からはひどく怒られた。最初、従兄が弾いている「禁じられた遊び」を見よう見まねでコピーした。それから暫くギターをどのように弾いていいかわからずチューニングもままならないゆえ、放ったらかしにしてしまった。僕らの時代、ギターに関する教則本はオタマジャクシが並びちょっと音楽の教科書みたいな感じでどうにも馴染めなかった。それでもビートルズの写真を見てはギターを持つ指のフォームを真似していた。夏休みが明けたある日、スクリーンと言う雑誌にビートルズの「イエスタデイ」の譜面が載っているのを見つけた。それは生まれて初めて見るコード譜だった。指のフォームがちゃんと記されている。僕はその譜面によって初めてコードと言うものの存在を知った。だから僕が一番最初にコピーした曲は当時(1965年)ビートルズの新曲であった「イエスタデイ」である。
この「イエスタデイ」と言う新曲で、ビートルズがエレクトリックでは無い生ギター(アコースティックと言う呼び方はまだ一般的ではなかった)を弾いていた事を僕は既に知っていた。この曲にはポール・マッカートニーだけが参加して、弦楽四重奏をバックにギター1本でしっとり歌い上げている事も情報として知っていた。まぁ、聴けばわかる事だが。。当時としては何故他のメンバーが参加してないのか不思議に思った記憶がある。
この時、彼が弾いていたギターがエピフォンのテキサンと言うモデルである事を知るのはそれから何年も経ってからだ。
そして当時は当然そのようなギターを自分が手に入れたりすることなど夢にも思っていなかった。
エピフォン・テキサンはラウンドショルダーと言って、なで肩の傾斜を持つ美しいフォルムのギターである。形はギブソンのJ−45とほぼ同じである。
このギターより前に僕がエピフォンと言うメーカーの存在を知ったのはビートルズが来日した時に持っていたエピフォン・カジノを通じてである。
ピックガードに「E」のマーク。ほどなくして、これと同じマークのもののアコースティック・ギターをポールが抱えている姿をミュージック・ライフかティーン・ビートと言う音楽誌のグラビアで発見した。このギターはギブソンJ-45から較べるとその製造数はきわめて少ない。だいたい、ファッションに於いても希少性のアイテムが好みな僕はアコースティック・ギターと言えばエピフォン・テキサン、なんかそんな図式が頭の中に出来てしまった。実物を手に入れたのはいまから10年近く前。インターネット・オークションでである。ファッションもそうだが子供の頃に憧れたものが目の前にある日突然表れたりしたら、やっぱり何としてでも手に入れたくなるものだ。ずっと片想いしていたものだからね。厳重にパッケージングされたエピフォン・テキサンが僕の手元に届いた日の感動は今も忘れられない。1900円で買ったギターを買ったその日から、それは遠く長い道のりだった。