Rocker and Hooker

今回は長いです。御覚悟を(笑)!世界一のレビュー。目指して書き始めます。

ジャム(The Jam)の最後のスタジオ・レコーディング・アルバムとなった『ギフト(THE GIFT)』(1982年3月リリース)、今回ここで解説していくこの素晴らしい限定デラックス・エディションBOX(以下、デラBOX)は、同アルバムの30周年記念エディションとして英国にて昨年2012年11月にリリースされたものだ。自分がこれを入手できたのはHMV JAPAN経由で昨年末の事。年末年始の最高の、まさに〈贈り物〉となったわけだ。


リリース当初の同アルバム、初回盤は上右の写真のような紙袋に入って販売されていた。ちょっとしたギフト・パッケージってシャレですね。で、今回のデラBOXのデザイン、当然これが再現されていて。外装のタイトルもオリジナル同様『A Gift….』になっている。『THE GIFT』はアルバム・タイトルだけど、収録曲の〆の曲のタイトルも『Gift』。楽曲のギフトの意味はどっちかっていうと〈天賦のもの〉っていう方。だけどそれがパッケージになって、〈贈り物〉に転化するっていう当時の解釈プロセスはここでも確実に再現してくれている。

実際に手にして、内容に触れて、35年来のジャム愛好家の自分もブッ飛んだデラBOXの詳細について触れて行く前に、ジャムにとって『ギフト』がいかなるアルバムであったのか、というのを先に説明しておかないといけないですね。



1982年は全てのジャムのファンにとって忘れられない年となりました。 デビュー翌年1978年リリースの3rdアルバム『オール・モッド・コンズ(All Mod Cons)』がネオ・モッズ・リヴァイヴァルと相成って新しいモッズ達のアンセム的な作品となってから1982年に至るまでジャムのイギリスでの人気は凄まじく、音楽誌『New Musical Express(N.M.E)』におけるリーダーズ・ポール(ファンの人気投票)ではバンドの人気も1位、作品はアルバムもシングルも1位、メンバー全てがそれぞれのプレイヤー部門で1位、さらに「最も素晴らしい人物」ではポール・ウェラー(Paul Weller)が1位、「最もセクシーな人物」ではブルース・フォクストン(Bruce Foxton)が1位っていう凄まじい事態でありました。以下の記述については、1982年当時、英国でトップ中のトップの評価と人気であったバンド=ジャムが選んだ決断であるってことを意識しながら読んでいただきたい。

ジャケは左が英国オリジナル、右が日本発売。何故か日本盤は黒い縁取り。裏ジャケも日本版はブルー・トーンに。これはクール!


ウェラーから「このバンドでやれることは全てやり尽くした。このままずるずると過去の遺物となっていくことを避ける為に、輝いた状態でバンドの幕引きをしたい」といった旨のコメントが発表されたのが最後の来日公演(もちろんアルバム『ギフト』のリリースにともなうツアー=『Trans-Global Unity Express Tour 1982』)のあった6月からほどなくしてのこと。ライヴの衝撃と興奮の治まる事の無かった日々、ジャムに、ウェラーに心酔しきっていた自分の日々を決定的に揺るがす事となったそのコメント。解散コメントの全容を知る前に、自分はそのニュースを地元の駅のホームで久々に会った中学校時代の友人から聞かされた。20歳の夏のことだった。目を見張り、耳を疑うっていうのはまさにあのことだったろうなぁ。当時、大学に通っていた自分がカバンの代わりに使っていたのが、先のジャムの来日時に中野サンプラの側で購入したバッタモンのThe Jamロゴ(通称スプレー・ロゴ)入りの巾着(苦笑)。友人はそれを抱えている自分を見るなり、急に思い出したように「そうそう!ジャム、解散するんだってな!」ってあっさり言い放ちやがった。人生20年、最大の喪失(どんな失恋も比較にならない)のショックであった。目の前真っ暗。その後自分がどうしていたかしばらく思い出せないくらいだったものだ。
解散の予感は?う〜〜ん、遠いここ日本、しかもジャムって当時の日本で本当に人気が低かったし、故に細かい情報なんて届いて来なかったことを考えると、予感なんてしようもなかったな。ただ、長いウェラーの音楽変遷を俯瞰でとらえられる現在では、その決断は当然のものであったと受け入れられる。『ギフト』はそんな時期に鳴らされた、いろんな意味で〈警鐘〉のような作品であったような気がする。イギリスがフォークランド紛争に突入し、アルゼンチンと緊張下にあったのがまさに『ギフト』のリリースされた3月12日の翌々日のこと。近づくポスト・パンク/ニュー・ウェイヴの新しい文化、そんな中で高まって行く20代前半の天才ウェラーの音楽的な才能と欲求、それに応えられない残る二人のジャム=ベース&ヴォーカルのフォクストンとドラムのリック・バックラー(Rick Buckler)の技術とセンス。バンド内とその周辺に立ちこめ始める暗雲と遠雷の響き。隠蔽されて来たそれら鬱々としたものを完全に露見させてしまった作品、ウェラーがその後すぐに結成/スタートさせたユニット=スタイル・カウンシル(The Style Council)の前哨戦ともなった作品、世紀の「失敗作」?「問題作」?それがまさに、このアルバム『ギフト』なのである。
厳しすぎるその〈現実〉の断片を、改めて癒えない傷跡のようにいくつも白日の下にさらし直した今回のデラBOX収録音源。30年越しの〈葛藤〉の美しく甘く切ない残り香。さぁ、いよいよ気になるデラBOXの中身と収録データについて触れて行こう!

まず、最初に驚いたのが3枚の音源ディスクと1枚の映像ディスクを巻末ページにホールドしているブックレットの美しさとカッコ良さ!アート・ブックと読んで差し支えありません。忠実なオリジナル・ジャケット再現の表紙をめくると、表2見開きページ、さらに表3見開き対向ページに特殊プリントで加工されたアルバム収録全曲を配したメッセージが。中身を読み進むと、‘70〜’80年代のモッズ・ファンジンっぽいデザインとレイアウト、タイポグラフィーで綴られて行くアルバム制作に臨んだ1981年からリリースの1982年までのメンバーのインタビュー、エピソードの再現。さすがにこれだけジャム関連書籍をコレクションしていると自分にとっては初見の写真ロケーションはほとんどなかったけれど、ポーズ違いのモノや、別アングルのモノなんかはいくつも観られて、もうワクワクはピークへと一直線!極めつけは当時のタブロイド紙のジャムの記事のピックアップと綺麗な再現掲載。これはもう間違いなく日本人の自分にとって初体験のものばかり。アルバム制作時のメモなんかも掲載されていて、まさにメモリアルなデラBOXに内包されるブックとして相応しい内容と仕様だ。


そして付属の嬉しいオマケ群はというと。。。。以下、ご覧のようなツアー・タイトルとロゴ・デザインをあしらったペーパー・スリーヴに封入されていたのは、凛々しいウェラー(だけ!←苦笑)と当時の販促フライヤー(だと思う。自分が所有しているご覧のものが当時の販促ポスターのはずだから)、さらには当時日本で発売されたベスト・クリップ集のVHSビデオのジャケットにも使われていた日本の駅のホームで撮影されたメンバー・ショットのフォト・シート!加えて本国イギリスでのツアー・プログラムのレプリカ。残念ながらこれは自分も写真でしか見た事が無かったので、原寸大かどうかは不明。どなたか本物をお持ちでしたら事実関係を教えて下さい。よろしければ適価でお譲り下さい(笑)!


素晴らしきオマケの数々。日本発VHSとのリンクに注目。さらに右端は記述している『The Gift』のオリジナル販促ポスター


英国/日本のプログラムのデザインの差。 こうした点からもジャムが日本で理解されて いなかったことが察せられる。

で、いよいよ本題。前記にもした、アルバムの内容と、それが提示していたバンド内でのカタストロフとヒエラルキー、当時のウェラーが抱えていたフラストレーションと見据えていた自分の未来までもが改めてリアルな音源とともに明らかにされる収録音源と映像について記して行こう。

紙ジャケCDであったワクワクが、さらに違うディメンジョンにいく可能性!?

先にも触れたように、音源ディスクは3枚。そして映像ディスクは1枚。
まずはDisc One。これはオリジナル・アルバムの収録曲のおそらく最新リマスター(2007年に紙ジャケ復刻でリリースされていた音源よりさらに音像がスッキリしていると感じたのはUKミックス故?2008年のSHM-CD音源を採用してるか?2007年の紙ジャケのCDは日本でマスタリングしている可能性もあるし)、そしてアルバム『ギフト』関連でリリースされたシングル(7inch &12Inch)に収録されていた曲を全曲網羅。これらの写真は自分がコレクションしているオリジナルのアナログなので、レーベル面なんかもチェックしてみて欲しい。ここから全て、ってことだ。音の輪郭がスッキリとされている

『Town~』の12inchはドイツ盤。アルバム『Sound~』の米国盤裏ジャケに使用された写真のEP盤は英国盤だが、リリース時不明。
今回のデモ版収録曲の中に入ったことで『Absolute〜』は『The Gift』の脈絡で改めてとらえられることに。『Tales〜』はカップリングながらオアシス(Oasis)君達がジャムのトリビュート盤で選曲した一曲。

『Bitterest〜』の12inchには黒っぽさを強調する3曲のカヴァー『Alfee』、『Fever』、『War』と新曲(最後の日本公演でも披露)『Great Depression』を収録。いずれも今回のデラBOXには収録

『Beat~』は12inchも存在する。2枚組(英国オリジナル)じゃない方のジャケ(ドイツ盤)の写真のが存在している。

のと同時に、ギターの分離と置き位置の明確化、ベースのソリッド感とグルーヴ・ラインの押し出し強化っていうのが全体の印象として残った。内臓脂肪が完全燃焼したサウンドって感じかな(笑)?CDではなくアナログLPを適切なオーディオで聴いているっていうイメージ。コーラス・パートや演奏に埋もれがちだったスキャットやシンガロングなんかもグッと聴きやすくなった。驚いたのは、意図は解らないが収録曲『"Trans-Global Express"』の音像が、先の紙ジャケCDとは左右反転しているとこ ろ。ミス・プレスなのかどうか。元々アヴァンっぽいアレンジでサウンド・コラージュもふんだんに盛り込まれている楽曲なので、その真意を知りたいところだ。ちなみに当時のオリジナルLPの初回盤プレスは今回の音像と同じ。やっぱりあの紙ジャケって、日本の製作ミス(苦笑)????アルバム冒頭『Happy Together』の頭のモノローグ(おそらくTVのCMかなんかのナレーション引用?)もグッと聴きやすい。あんまり意味ない部分だが。もう一点、作品中では最も地味なフォクストン作品のインスト楽曲『サーカス(Circus)』の終盤でギターのメロ・ラインに合わせて歌がユニゾンっているのにも今回初めて気がついた点。〈音の箱庭散策〉としての発見はオーディオ・システムを替えて聴いて行けばさらなる発見もありそうで楽しみだ。

そしてDisc Two。こちらはアルバム制作時のアウト・テイクやデモ・トラックを惜しげも無く収録。ジャムは解散から10年後の1992年に『エクストラス(Extras)』というウェラーに「これこそ自分が公表されるのを望んでいた作品!」と言わしめた(自分が楽曲ライティング当時にイメージしたデモ=自分で演奏しているモノこそがジャムの本質である、と示唆したわけだ)レア・トラック集をリリースしており、この中にも当然『ギフト』関連の楽曲のデモと未発表曲も合わせて3曲収録されていたが、今回は本当に驚愕のお蔵出しと言えよう。その『エクストラス』にも収録されていたDisc One収録のシングル関連曲も音源がよりクリアになって再現された事を考えると、『エクストラス』は最早今回の『ギフト』デラBOXのリリースにより、このアルバムに関してだけは資料性価値が無くなったと言えるだろう。特筆しておきたいのはいきなりカマされたM-1の 『Skirt』。??スカートってタイトルなんて聞いたこと無いぞ、完全未発表曲か??と思って聴いたら『ギフト』とその前作『サウンド・アフェクツ(Sound Affects)』(1980年末リリース)の間にリリースされたシングル『アブソリュート・ビギナース(Absolute Beginners)』のデモではないか!?しかも歌詞どころか構成も違っていて。うん、公式にリリースされたヴァージョンの構成がいかに素晴らしくブラッシュ・アップされたものだったのかっていう事実に出逢えただけで感涙ものだった!アルバム『ギフト』のオリジナル収録曲でも、『ランニング・オン・ザ・スポット(Runnning On The Spot)』(昨年、ウェラーのソロ来日公演でも何と披露された!)の歌いだし音程なんかにも代表されるように、何だか制作過程に於けるウェラーの〈迷い〉がそこかしこにかいま見れるデモ音源の数々にはとにかく感動しまくりだった。

さらにDisc Three。これは夢の音源の完全再生である。ジャムの解散ライヴ・ツアー、イギリスで12月の中旬まで行われ、ウェンブリーではほぼ一週間公演が行われた。ここではそのウェンブリー公演の12月3日の音源。ほぼ完璧に流れを再現。全曲収録のはず。今まで海賊版でも満足なものが出て来てなかったので、まさかの未収録!?!?疑惑もあった公演。なぜ最終公演のものでなかったのかは不明であるが、超貴重な音源のお蔵出しであることに変わりはない。終盤でフォクストンの「6年間ありがとう」コメントもあって、今さらながら30年越しの涙だ。さてせっかくだから、メモリアルで歴史的な価値のあるセット・リストをここで見てみる。以下、左の内容だ。右は後述する内容の資料。

Live at Wembley(1982年12月3日)
1. Start!
2. It's Too Bad
3. Beat Surrender
4. Away From The Numbers
5. Ghosts
6. In The Crowd
7. Boy About Town
8. So Sad About Us
9. All Mod Cons
10. To Be Someone
11. Smithers-Jones
12. That's Entertainment
13. The Great Depression
14. Precious
15. Move On Up
16. Circus
17. Down In The Tube Station At Midnight
18. David Watts
19. Mr Clean
20. Town Called Malice
21. But I'm Different Now
22. Trans-Global Express
23. In The City

本編はM-20で終了。アンコールのM-21、22。この間に先ほど紹介したフォクストンのMCがある。実はM-22の頭、ここが微妙な音編集。実際はその前にフォクストンのMCに次ぐ何かがあったのでは?の邪推を打ち消すように、編集上は強引にM-22が始まる。この辺は見た人にしか解らないなぁ。悔しい。誰か又聞きでも良いんで、教えて!そして衝撃のWアンコールがジャムのデビュー曲であるM-23。自分の知る限り、ジャムがトップを走り始めてからの数年間で、ウェラーがこういう感傷的かつドラマティックな演出と選曲をバンドに持ち込んだのはこれ一度きりだと思う。そのくらいストイックだったジャム時代のウェラー。だからこその涙、涙の最終曲だ。これで終わった訳だ。同月にあった事実上のラスト・ライヴのセット・リストも知りたいが、とにかく1982年の12月3日、このセット・リストの意味と意義は永遠だ。
これは当然〈Farewell Live〉用のセット・リストなわけだが、その直前のツアー、すなわちアルバム『ギフト』リリースにともなうライヴ・ツアー「Trans-Global〜〜」のセット・リストも振り返ってみよう。たった半年弱前のツアーのものだから。右に記載しているのが、6月に行われた日本公演のメニュー。1982年7月号の雑誌『MUSIC LIFE』から引用させてもらった。

6月11日厚生年金会館公演。自分が参加したのは6月14日の中野サンプラザなんで、実をいうと記憶を辿ってみると、これとは内容が若干違っている。明らかに違うのはM-2。中野ではM-2を省いていきなりM-3の『In~』が始まった記憶がある。両セットでかぶっている曲、全13曲。半分近くが一緒、アレンジも全くと言っていい程一緒。しかし逆に言うと半分近くの楽曲がラスト・ギグ用に用意されたものでもあるのだ。これはやはり、ジャムという1970年代後半から‘80年代頭にイギリスで絶大な支持を受けたバンドの幕引きとして、当事者達が相当思うところがあっての選曲であったとも言えるだろう。
M-1は、ここではあたかもビートルズ(The Beatles)の遺言、アルバム『アビー・ロード(Abbey Road)』収録の『キャリー・ザット・ウェイト(Carry That Weight)』とメッセージを同じくする、ジャムなりの、ファン達との決別宣言にも聴こえる。最後のシングルであるM-3のライヴはここでしか聴けないのはもちろん。M-4は1stアルバム収録曲で、ジャムが最も影響を受けたとされていたバンド=フー(The Who)から離れて頑張って行くぜ!っていう決意表明とも言われた曲だ。『〜Numbers』はフーの最初のバンド名である〈By Numbers〉のことを意味すると言われていた曰く付きの曲。そういう意味ではM-8もフーのドラマー、若くして逝った天才=キース・ムーン(Keith Moon)に捧げられてカヴァーされた(1978年のシングル『Down In The Tube Station At Midnight』のC/W)フーの曲だ。M−6はまるでキンクス(The Kinks)といった趣の中期楽曲。ミドルのメロがそっくりそのままキンクス楽曲(笑)。M-9〜10のメドレーの流れはジャムが初めてイギリスで大きな評価を得た3rdアルバム『オール・モッド・コンズ』のツアーではお約束のオープニングの流れだったもので、アレンジもそのままだ。とにかくビートルズ、フー、キンクスといった、ジャムが影響を受けたと言われる偉大な先達達の影響下にあったと思われる作品群を、歴史的なストーリーとともに縦横無尽に展開。そしてその中心をなすのはもちろん最終作となった『ギフト』からの曲だ。これは後にウェラーのスタイル・カウンシルに一直線につながるものだと考えると、このライヴの選曲には実に大きな意味を感じる。

さて、最後に唯一収納されているDVDの内容にも触れておこう。
肝心のライヴ映像は、残念ながら当時リリースされていたセル・ビデオ(VHS)と全く同内容。30年の間、その映像はVHS〜LD〜DVDとメディア変換されて発売されて来たが、今回のリリースにおいて、大きなマスタリングなどの作業はされていないと感じた。そして『ギフト』周辺作品のプロモ・ヴィデオを3曲。1982年当時、特に『Town Called Malice』と『Precious』の2曲は、映像のにじみが気になって楽曲のシャープでグルーヴィーな持ち味が損なわれている気がしていて、今回映像のマスタリングに期待しつつ観てみたが、これが全く変わってない。つまりオリジナルのフィルムがそういう状態で撮影されているってことだったわけだ。う〜〜む、バンドの意志だったのね。画質のせいではなかったのだ。TV番組出演のアテぶり映像は、これも2007年に発売されたDVD『ザ・コンプリート・ジャム(The Complete Jam)』で狂喜の映像お蔵出し満載!が既になされていた(買い集めていた海賊版VHSの価値がゼロになったと。。。。)ため、新鮮味はゼロ。と思いきや!!収録のオランダのTV出演パフォーマンスには驚いた!このクオリティの映像ではもちろん初見。しかも生演奏!スタジオ収録なんで、ウェラーのギターの弾き方やコードの押さえ方、手癖もバッチリ観れる!!これは凄い発掘だ。
ライヴの映像の話にちょっと戻ります。先にも書きましたが、なぜこの『ギフト』がジャムにとっての宿命の問題作なのか、という話にもかぶるので。
前作『サウンド・アフェクツ』でキンクスもフーも通過した上でのビートルズの現代的(1980年初頭ね)再現っていうコンセプトを実際の作品で成就させたウェラーにとって、次に向かう先は〈原点回帰〉、より自分の趣味的な部分に忠実になり、新しいムーヴメントを勃興させることだった。これは折しも当時盛んだったネオ・モッズ・リヴァイヴァルのムーヴメントに触発されたものでもあったと思う。何といってもウェラー、まだ22〜23歳の若造の頃のことだ。いろんなものに影響を受けるし、気も移る。彼の〈Ever Changing Moods〉のなせる業ですな。
しかし、残念!ベースのフォクストンのピッキング、ドラムのバックラーのタイム感は、ウェラーが意図した黒人音楽×ギター・ポップ(すなわちその直後に英国で大きなムーヴメントを形成したブルー・アイド・ソウルだ)を実現化できなかったのだ。ライヴで観ると明らかな通り、フォクストンは最も黒っぽい楽曲『Precious』のベース・ラインをピックでバリバリ弾いちゃってる。
いつものスタイルだ。フレーズだけはソウル/ファンクっぽいメロだが、音の質感がまるでファットじゃない。
彼は元々、ポール・マッカトニー(Paul McCartney)スタイルの、コードを意識したリフ・メイキングでグイグイ、ゴリゴリ押し上げて行くタイプのベーシストなので、この作品に於けるミッションは相当ヘヴィーだったのだろうなぁ。

バックラーと言えば、彼はもともとタッタカタッタカと軽い8ビートに唐突なタム・ロール(タカタカタカタカって転がる音ですね)を転換に導入っていう、ちょっとロック的な解釈から判断すると〈垢抜けない〉ドラマー。言っちゃうとビート・バンドにも向かない感じ?ビッグ・ジャズ・バンドの中でノリを主張せずに黙々とリズム・キープをするようなタイプかな。なので、ファンクやソウルの溜めたグルーヴ感なんてまるで再現出来ない。そんな苦闘と煩悶が滲み出て、迎え入れている二人のゲスト黒人プレイヤー(オルガン、トランペット、アルト・サックス、パーカッションなどをこなしている。日本にも来た)が創成するリズムの気持ちの良い〈揺れ〉がバンドのグルーヴへと昇華されない。何とも変なライヴだ。サーテイン・レイシオ(A Certain Ratio)みたいな後のインディーズ系のインダストリアル・ダンス・グルーヴの先駆けと強引に視ることも可能だが、いくらなんでも偉大なウェラーの経歴でその考察はないだろうな。

音の方にも触れておこう。ウェラーのギターにおけるコード・カッティングのスタイルの変遷。
初期〜中期まで、いやアルバム5作目である『サウンド・アフェクツ』までって言っても良いかも。彼のスタイルはコード・ストロークとアルペジオによる歌メロのバック・アップが主でした。時折、リフっぽいメロも弾きはするけれど、基本はコードに忠実なプレイ。それが同アルバム・リリース後に最初にリリースされたアルバム未収録シングル楽曲である『フューネラル・パイアー(Funeral Pyre)』(1981年6月)、そして次のシングル『アブソリュート・ビギナーズ』(同年10月)、この次作である『ギフト』にも収録されなかった2曲の間で大きな変化が起こった。実際に当時、ビックリだったし。何に??『アブソリュート〜』に。『フューネラル〜』は過去のジャムにもあった芸風です。例えば4thアルバム『セッティング・サンズ(Setting Sons)』収録、ライヴのハイライトで定番だった『プライヴェート・ヘル(Private Hell)』しかり、先ほどより書いている5thアルバム『サウンド・アフェクツ』収録で、解散後すぐにリリースされたライヴ名演オムニバス盤の『ディグ・ザ・ニュー・ブリード(Dig The New Breed)』にも収録された『セット・ザ・ハウス・アブライズ(Set The House Ablaze)』しかり。こういう〈怒り=レイジ〉をパワーの根源とした楽曲はジャムの楽曲ラインナップで枚挙にいとまがない。しかし!!『アブソリュート〜』におけるホーン導入とファンキーなギター・カッティング、弾むリズムっていうのは全くジャムの新機軸で、これが来るべき『ギフト』の草案の中で同時に生まれた楽曲であることに疑いはない!だから今回のデラBOXにこの曲の草案デモが収録されていたんだろうし。『ギフト』やその後のスタイル・カウンシルの展開を知らなかった当時、このホーンの導入はビートルズにおける『リボルバー(Revolver)』(1966年)に相応する立ち位置を狙って制作されたアルバム『サウンド・アフェクツ』の続編の楽曲、すなわちビートルズの『ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ(Got To Get You Into My Life)』(『リボルバー』収録)を狙った曲と思えたのだ。じゃあ次はジャムの『サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド〜(Sgt,Pepper’s Lonely Hearts Club Band)』が生まれるの!?!?って期待とともに。実際は、違ってました。で、『ギフト』です。ウェラー曰く、最も影響を受けたギタリストはピート・タウンゼント(Pete Townsent)じゃなくってDr.フィールグッド(Dr.Feelgood)のウィルコ・ジョンソン(Wilko Johnson)だって強がりを裏打ちするような、パワー&グルーヴィー・カッティングの新しいギター・プレイ・スタイルの誕生もここで唐突に。コード・ストロークじゃない。フォクストンのベース・ラインにコードを語らせて、自分はコードの陰陽を決定づけるライトなカッティング・リフ・メイキングに徹するっていう。ベースがピアノの左手だとするならば、ここでのウェラーはもうピアノの右手の仕事しかしていない。いや、それはもちろん予め計画された上でのことだろうが、とにかく〈次!!〉に行きたかったのだ、彼は。自らが影響を受け、愛して来たロックにおけるギターのスタイルを突き詰めて、ここに至る。で、もうそんなバンドにおける制約や決まり事の全てがイヤになっちゃったっていう『ギフト』の頃のウェラー。それが証拠に、ジャム解散後にスタートさせたユニット=スタイル・カウンシルのデビュー・シングル『スピーク・ライク・ア・チャイルド(Speak Like A Child)』(1983年3月/ウェラーが愛聴するレーヴェルーBlue Noteにハービー・ハンコック:Herbie Hancockが遺した名盤アルバムと同名!)の中にギターの音は全く聴こえない。彼は弾いてないはずだ、ここで。タイトかつファンキーなドラムとベースというジャムで得られなかったリズムを手にしたウェラーの書いたこの曲のコード感を彩るのはオルガンであり、リフを作るのはホーン・セクションだ。楽曲のテイストとしてはジャムから、特に『ギフト』の世界観から大きく逸脱しなかったウェラーに対して、当時は「何故、あんな素晴らしいジャムを解散させてまでして、これを始めたの!?!?」って憤りも感じたが、今こうして歴史を振り返りながら聴いてみると、この一連の流れには大きな意味があったのだ。

いやいや、今月は本当に盛りだくさんで失礼しました!
以上、長きに渉って語って来たこの全てがジャムにとっての『ギフト』の意味であるし、ウェラーにとっての『ギフト』の意味なのだと思っています。それらが驚く程明白にこのデラBOXとともに甦った。自分の青春の蹉跌さえも(苦笑)。
一度はジャムを愛聴した、さらにこの『ギフト』に興味を持った方には絶対にお勧めしたい記念BOXだ。ちなみにオマケやブックの無い、通常CDサイズのレガシー・エディションも発売されていて、こちらは価格も含めてグッとカジュアル。1982年という時代、パンク〜ニュー・ウェイヴの烈風の吹き荒れていたたイギリスにおける一つの時代の終焉と新しい流行の兆しのあった時代。ジャムの『ギフト』とは、そんなものまでが全て込められたタイム・カプセルのような作品でもあったのだ。〈問題作〉でも〈失敗作〉でもない、ジャムの〈最重要作品〉であったのかもしれない。

ROCKER AND HOOKERの店頭では『ギフト』に際してのツアーTとプロモーション用Tのオリジナルが飾られています。永遠に戻れないあの頃を、遠い目をして思い出す、2013年、年の初め。



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