Rocker and Hooker

昔からセーターが好きだ。 このザックリしたセーターは20年以上前にスコットランドのインヴァネスで手に入れた。
真夏に訪れたその地は日によって一気に気温が下がる。
夜になると10℃前後に外気が冷え込む事もある。
だが翌朝になると嘘みたいに乾いた夏の陽射しが戻っていたり。
当時はまだフリースの類いがあまり市場に出回っていなかったため薄着でスコットランドにやって来た僕は何か簡単に羽織るものを買う必要があった。
そんなアイテムはセーターが手っ取り早い。
夏でも平気でウールのセーターを着用して歩いている人がここにはいるし。
スコットランド人の皮膚感覚はどうなってるのかなって時々思ったりするけど湿度がない分あまり気にならないのかも。
真夏日でも木陰に入ると信じられないくらいひんやりしていたりするしね。
で、僕はハンド・ニット・ショップに入りいろんなセーターを物色した。しっとりとオイルでコーティングされた防水性の高いものもあったが油の匂いが強烈だったからヤメた。
生成り色のまま編まれたフィッシャーマンズ・セーターにはそれぞれの違う模様が編み込まれていてこれが家紋だと言う事をこの時初めて知った。
店主が言うには船乗り達が海で遭難した時でもセーターに編み込まれた家紋によってその人が判断できるらしい。
船乗りの妻、娘達は主人の安全を祈りこのセーターを編むのだろう。そしてその店にもの凄く鮮やかなニットを僕は発見した。
店主がサマー・クリスマス・セーターと呼んでいたのがこれである。なんかその店主がつけたこのセーターのネーミングにいたく感動した事を覚えている。
二頭のハスキー犬、もしくはアカスカンマラミュートと犬ぞりの主人が編み込まれている美しいセーター。
オークニー諸島生まれのこのハンド・ニット。羊毛のセーターはシェットランド諸島のものが有名だが、同じスコットランド北東オークニー諸島でも同じような気候、そして文化から放牧が盛んなのだろう。
1年中風が強く夏の気温も上がらないその地で見知らぬ誰かが編んだこのセーター。
今やインターネットの時代である。
彼方の地でそのhand knitterがこのブログを覗いてこのセーターを発見してくれるような偶然に期待したい。「遠く日本であなたの編んだセーターを僕が大事に着ていますよ」ちょっとそんな事を伝えたい冬の夜です。


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