Rocker and Hooker

ロンドン・サヴィル・ロウのスーツを仕立てたのはかれこれ6年前。英国在住40年の山本芳徳(MOTO)氏が来日したから。
MOTOさんは仕立て屋の息子として生まれ銀座老舗テイラーで修行、1965年、スウィンギング・ロンドン真っ只中の時代に渡英、サヴィル・ロウでカッターになった。
その時代、トニー・ナッターがローリング・ストーンズのスーツを手がけた事から、それまでのサヴィル・ロウのカッティングはポップでHipなものに激変する。
だが、MOTOさんはそんな時流に背を向けクラシックなサヴィル・ロウ仕立てとエッセンスを吸収し続け今日に至っている。
生地はH.LESSER&SONS、生地No.29788 重さ.13oz 糸番手.90 、グレンチェック。ラインのブルーが美しいものを選んだ。
ちょっとカジュアルなものにしたかったのでアウト・ポケットでワイドな襟。ゴージはやや高め。Vゾーンは2ボタン。サイド・ベンツは26センチ。上着自体をショートなものにしたのでちょっと深いベントかも。だが、そのほうがシェイプは強調される。
本切羽仕様の袖のボタンはクレイジー・ボタン。手前のものだけ濃いブルーを。裏地は玉虫ブルー、そして襟裏をマドリッド・レッドに。パンツはワン・タックと基本だが裾を22.5センチと細めにした。ダブル。折り返し幅は5センチと広め。本来ならパンツは太めにして70年代的なスタイルにしても良かったが僕はミクスチュアーな遊び心ある仕立てにしたかった。
このデザインは仮縫いをしている際、MOTOさんとあれやこれやと喋りながら決めたものだ。
スーツを仕立てる時、ビスポークと言う言葉を耳にする。ビスポークは"be spoke"と言う意味である。つまり喋りながら、会話をしながら仕立てて行くと言う意味がこの語源である。
自分にぴったりのものを職人と一緒に作り上げていく、これがサヴィル・ロウの精神である。
MOTOさんはしっかりそれを受け継いだサヴィル・ロウ技術の継承者だ。その人が日本人である事を僕らは誇りに思っていいんじゃないだろうか。
そして、ビスポーク仕立ての何よりの利点は体型に応じて直しが利くところである。
MOTOさんものに限って言えば体重±(プラスマイナス)10キロくらいまで対応してくれる。つまり太った場合,逆にダイエットで絞った場合、のりしろ10キロくらいの仕立て幅の応用が利くと言う事だ。ビスポークで仕立てるものは確かにプライスも高い。しかし、ここまで考え抜かれて仕立てるのだから長い付き合いをする分には却ってリーズナブルと言える。まぁ、太らないに超した事はないんだが。で、この夏、2013年〜14年の冬を目指しいよいよコートをビスポークする。


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